【 必要性と緊急性 】
東アジアの文化・社会等の研究に関して文献資料を取り扱う時、その批判的使用は中国伝統学問の基礎分野となり、目録学として確立した。しかし、版本の相違、写本との比較などは一部を除けば、蔵書量や善本の欠如という制約から、肝要な作業とは知りつつも、怠る傾向があり、とりわけ中国ではその後退が顕著である。今日、印刷技術、交流システム、情報伝達システムの急速な発展のおかげで、特殊な印刷文献なども容易に複製本、或いは図書館・資料館で利用し得る状況となっている。多くの場合、発達した情報システムを通して資料の蒐集を行うことが出来るが、いざ開始をする段階になって、異版・同版・系統などの問題が出てくる。従来は、個別テーマとして取り組むものの、その統合性は図られていなかったのが現状であった。しかも、従来の書誌研究は個別専門研究とは直結せず、特殊なものとして扱われる傾向にあった。
(b)緊急性本研究領域は学問体系の基盤として必要な部門であるにもかかわらず、科研費の公募に応じる際にも、その申請コードがないことに端的に窺えるように、独自の学問体系と認知されずにきている。かつての重点領域研究「人文科学とコンピュータ」(平成7年度〜平成10年度)及び特定領域研究(A)「古典学の再構築」(平成10年度〜平成14年度)は情報伝達の合理性の追求及び写本・現存本の集積に重点を置いて、人文学の発展を進めようとする画期的なものである。残念なことには、東アジア社会で文化の基本となった、木版印刷を中心とした文化構造分析には及ばないように見える。我々は、歴代の東アジアの文献、とりわけ版本を中心とした文化財的文献を多数擁して、国際学界をリードして来た東アジア研究の更なるレベルアップを図るべく、本研究を上記の重点・特定の両研究領域の推進する人文学の基本的かつ近現代・将来的展開の重厚な業績を継承しつつ、一方で個々の文献の価値・位置を書誌的に把握して、東アジア古典の受容史、或いはそのもの自体を文化史の生き証人としてを広く社会文化との係合いから見極めようとする。
竹紙や和紙などに印刷された年代を経た文献の保存はその維持を困難にしつつある。とりわけ、近代初期の酸性紙で印刷された文献はおびただしい破損とその進行ががあり、早期の対策と研究・保存が望まれる。また、図書館で保存される旧文化の証人たる和漢籍などの整理、そのオンラインシステムによる提供は、公共図書館の急務にして悩むところでもあり、その対応が必要となっている。同時に、近年の影印技術や画像処理、資料の保存(CD-ROM)などの飛躍的発展のもとに、研究条件の好転にひそむ研究者の原本離れが進み、研究レベルの衰退が起きている。影印本などを併用しつつも、原本に戻って研究を進めるべき状況に来ている。しかし、本領域が対象とする分野は、地道で年期を要する分野のため、後進の層がますます薄くなっているのが実情で、早急の対策が望まれる。
本研究は、各地で個別研究者が心に懐いていた東アジア世界の出版文化の取り組みを統合し、研究基盤の整備を行う。併せて、若手の育成という将来の日本の学術研究の基盤整備という意義も持つ。 |