【 本領域の相互関係図(木版本をめぐる社会状況)】
|
(A)出版機構研究
(範囲) | 官刻・家刻・坊刻いずれも含む、出版システム全体の研究。 |
(内容) | 書物を刊本として提供するに至る官・私の出版機構の形成過程とその特質を考察する。ここにいう出版機構には、官府や民間という設置形態の相違、出版の目的の差異などは問わず、あらゆる出版活動が含まれる。例えば、内府・国子監・王府の出版機構、建陽に代表される書林研究、地方書肆の出版活動の研究などがここでの検討項目である。 |
(B)出版物の研究
(範囲) | 個性ある出版物そのものの研究。 |
(内容) | 出版文化の中核をなし、最も重要な要素が東アジア歴代の版本そのものである。ここでは出版文化をめぐる総論的な研究ではなく、時代・文化・社会等を考える上で特別に取り上げるに値する書物を対象として研究を行う。例えば、オランダ蘭書の研究、モンゴル本医書の研究などは、文化交流史の上からも重要な資料であるが、その書物自体が文化の証人要素も濃厚であるので、それ自体研究対象として取り扱う。 |
(C)出版環境研究
(範囲) | 出版を成り立たせる社会的状況。 |
(内容) | 出版活動を成り立たせる社会環境や諸条件を分析する。文字文化全般の研究の他、出版に移行する前段階としての写本・文書や碑刻・印章、或いは、出版物に欠くことの出来ない版画や版画を含む絵画等の各種表現形式の研究、写本から版本への移行過程をめぐる研究がここに含まれる。また製紙、墨、彫版、銅活字などの技術史研究や、原材料の確保に関する研究、書物流通と密接な関係にあった交通システムにも注目する。 |
(D)出版文化論研究
(範囲) | 出版によってもたらされた社会現象、文化の構築などの研究。 |
(内容) | 唐本、朝鮮本、和刻本、満洲本、ベトナム本、チベット本、モンゴル本など、東アジア各地で出版された特色ある版本の比較検討を通じて、それらを生み出した社会の文化的特質を解明する。また、写本から刊本という、大量の情報伝達方法の出現がもたらした文化的影響全般について考察する。読書人層の成立、科挙や両班制度、書院や藩学での講学、小説本と戯曲制作との関係、宗教布教上の変化など、広い枠で出版が生み出した社会現象の検討をする。藏書家の書物収集や特殊文庫設置と旧蔵者をめぐる研究は、ここに含まれる。 |
(E)出版政策研究
(範囲) | 政治史を背景とした出版政策をめぐる研究。 |
(内容) | 出版に関する東アジア諸国家・王朝の統制、政策に焦点をあてて研究を進める。中国の場合を例に取るならば、石経や五経正義の制作、永楽大典・四庫全書の編纂などという国家プロジェクトをめぐる分析があろう。また、清朝に代表される禁書政策の分析、出版法の東アジア王朝における比較、統制に対する書肆の対応、士大夫の思考の検討が行われる。 |
(F)出版交流研究
(範囲) | 出版を基軸とした文化の相互関係の研究。 |
(内容) | 一つの知的商品となった書物が、国内、更には東アジア世界でいかに流通し、各地の出版活動にどのような影響を与えたのかを分析する。国内では、京版と地方版との相互関係、出版物の異なるジャンルでの相互影響関係、例えば小説と戯曲、道教経典と道情・宝巻などが具体的に挙げられる。国外では、原本の輸入・受容逆輸出をめぐる問題、覆刻本の制作出版、などを取り上げる。 |
(G)出版情報・書目研究
(範囲) | 蔵書目録の作成などのデータ整理を主とする研究。 |
(内容) | 東アジア出版文化及び関連研究を行う際、最も必要となるものが、資料・工具・研究分類目録などである。国際的な基準となった京都大学・東京大学の漢籍目録作成に則り、未整理の和漢書の分類と目録化、ベトナム・チベット・満洲本の目録作成、長沢規矩也氏和刻本書目に対する補訂版の作成、研究論文目録の作成などを行う。また電子図書館用のデータ作成に関する検討と実行、図書館における東アジア古出版物の取り扱いマニュアル作成など、出版情報ネットワークの作成に研究の重点を置く。 |