■成果
(a)官板系
明代の内府刊本・官刻本全般に亘る研究は、長沢規矩也『和漢書の印刷とその歴史』の中で「明代の刊本」という節でまとまった分析がある以外は、伝本が多いためか研究は意外に乏しい。官刻系明刊本でよく取り上げられるのは、史籍方面、および仏教・道教の経典、儒教の四書大全などである。最近の研究では野沢佳美『明代大蔵経の研究』が関係しよう。国外では古くは昌彼得の「明藩刻書考」から張秀民の「明代北京的刻書」・「明代南京的印書」、沈燮元の「明代江蘇刻書事業概述」など坊刻本についても言及されるが、かなりのスペースを官版系刻書に費やしている。明代の官版を含む出版研究と密接な関係をもつ書目類が『明代書目題跋叢刊』(書目文献出版社)として刊行されたことは意義あることである。王府刊本や官刻本等の索引として杜信孚による『明代版刻綜録』も注目されるが、原本に拠らない部分もあって、今後の再訂が望まれる。『両朝御覧図書』(紫禁城出版社)では、明内府刻本等について、図版入りの紹介があり官版研究の資料となる。フランスの“IMPRESSIONS DE CHINE”(Bibliotheque Nationale)も、官刻本の資料を掲載する。明代の刊本研究は坊刻の書肆や出版物に集中し、国内外ともに研究成果は乏しい。(磯部 彰)
(b)坊刻本
この方面の研究は、国内・国外ともに部分的な成果が見られるだけである。国内においては、読者層の研究が磯部彰・大木康らによってなされ、福建の日用類書の出版の研究が小川陽一によってなされている。出版書籍の種類及び現存状況については、中国においてやや成果が見られ、杜信孚・周光培・蒋孝達『明代版刻綜録』、韓錫鐸・王清原『小説書坊録』、謝水順・李挺『福建古代刻書』などが知られている。しかしこれ以外の分野については、なかなか解明が進まないのが現状である。それは上記の中国における成果がすべて共同作業であることからも知られるように、個人の作業を阻む困難な課題だからである。ここに共同研究の必要な理由がある。(小川陽一)
 茶陵本『文選』

『唐書演義』
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