〜加州白山金劒宮版『大般若波羅蜜多経』〜 中国仏教の影響を受けた東アジア諸国では、本家の中国をはじめとして、様々な形で仏教の経典を雕印した。ごく最近入手した白山版の大般若経もその一つで、経典本文から見れば、日本では奈良写経よりはるかに時代を下り、重要性は薄い。しかし、印刷・出版文化の方面から見れば、応永十八年(1411、永楽九年)刊行ということで、室町前期の地方文化の一端を物語るものとして、看過できないものがある(注
1)。手元にある存巻は、巻50、巻128、巻142、巻215、巻222、巻226、巻234、巻281、巻334、巻410の折本10帖である。 日本・応永十八年(1411)刊、折本存10帖、巻50他。半折縦23.7〜24.6?×横9.4?。うす茶の表紙に外題が墨書にて、「大般若経巻第二百三十四」と記される。帖首題署は、「大般若波羅蜜多経第/初分難信解品第三十四之五十三 三蔵法師玄奘奉 詔譯」と記す。版式は、無匡郭、半折5行、行17字。拍子から見ると、巻50、巻234、巻281の3帖は表紙が改装された可能性がある。巻尾頭は、「大般若波羅蜜多経巻第二百三十四」とし、その後帖末に7行にわたって超胤の刊跋を附す。 以件摺寫奉施入當社寶殿矣冀経王 刊記の後、梵字一文字と「貞澄」の墨書がある。 本家移転は金沢市立中央図書館に巻四十六が所蔵される。これは、英人・ホーレーおよび反町茂雄経由で収納された。帖首上部に「金劒宮」の墨書があることは、このたび入手した折本と同じで、おそらく、本来いずれも白山金劒宮に所蔵されていたものが、廃仏毀釈あたりに宮外に流出したのではないか(注3)。但し、巻226の折本表紙に「法□寺□堂當住」とあることから、白山外の寺院の旧蔵品であったことも十分あり得る。東京都立中央図書館にも巻564一帖が所蔵される他、川瀬一馬氏は巻46書影を提示している。 磯部彰(2000年12月5日) (注1)
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